遺族の挨拶のポイント
感謝とお礼の気持ちを主にします
 葬儀を主催する側の遺族、または遺族代表の挨拶は、主催者としての要素が中心になってきます。たとえ心情はつらくとも、故人への別れの言葉と同時に、参列の感謝の気持ちとお礼を欠かさずにきちんと挨拶しなければなりません。
 しかし、遺族にとっても故人とのこの世の最後のお別れのときなのですから、家族・親族だからといって遠慮する必要は少しもありません。過大なほめことばでないかぎり、素直な心情吐露はむしろ好ましいといえるでしょう。故人の生涯をたたえ哀惜の情を語り、お別れに花を添えることには、いっこうにさしつかえありません。
挨拶の基本形式
 遺族の挨拶も弔辞と同様に、基本形式をふまえます。

(1)参列者に会葬のお礼を述べます。
(2)故人の享年や死について述べます。
(3)生前故人がお世話になったお礼を述べます。
(4)故人の亡き後の覚悟を述べます。
(5)遺族・親族に対する支援・指導のお願いを述べます。
(6)会葬のお礼のあいさつで締めくくります。

以上のような形式になります。
儀礼的になりすぎると不自然になります
 参列者が親しい人の多い場合には、ことばを飾った儀礼的すぎる挨拶をすると、かえって不自然になります。最初と最後のお礼と感謝の気持ちさえ形をふまえていれば、後は自由に語ってかまいません。故人の生き方や人生観、人柄を語るさりげないエピソードを紹介し、自分の気持ちを素直に伝えた方が、好感の持てる挨拶といえるでしょう。
大きな葬儀では葬儀委員長が挨拶をします
出棺の挨拶は喪主、または親族代表がのべるのが通例ですが、社葬、団体葬と言うように葬儀の規模が大きくなると、葬儀委員長が挨拶します。葬儀委員長は、挨拶の概要を決めるために前もって遺族と打ち合わせをしておいた方がいいでしょう。
社会的地位の高かった故人の葬儀の場合は
 故人が生前要職についていたような場合では、私人としてよりも公人としての立場の方が優先されます。参列者も仕事関係者が多く、葬儀の雰囲気もだいぶ変わってくるでしょう。ですから、挨拶も自然と公的儀礼の決まり文句が多くなりますが、こういう場合はやむを得ません。故人の社会的地位を考慮して、使うことばや用語には、十分注意を払うことが大切になってきます。
とは言っても故人の業績だけではなく、なおかつ人柄をしのぶエピソードやことばを随所にちりばめると、故人の人間的な一面が浮き彫りになり、より深みのある効果的な挨拶となります。
やはり、故人の人間性を引き立たせたスピーチが一番といえるでしょう。
遺族の挨拶の例文
故人の息子の場合
 本日はご多忙中のところ、雨天にもかかわらずご焼香いただきまして、厚くお礼申し上げます。
享年○歳。母は病に伏すことなく、眠るように昇天いたしました。昨日の朝、なかなか起きてこない母を起こしにいったところ、すでに冷たくなっていたのです。その表情には、安らぎさえ漂っていました。「人に迷惑をかけずに布団のなかで静かに死にたい」と生前から申していた母にとって、本望な死だったと思います。
 はなはだ簡単ではございますが、お礼の挨拶といたします。皆様、本日は本当にありがとうございました。
故人の夫の場合
 皆様に、一言ご挨拶申し上げます。
 本日は、ご多忙中にもかかわらず、遠路はるばるお越しいただきましたことに、厚くお礼申し上げます。
 妻○○は、長年中学校の教員として教職に携わってまいりました。多くのすばらしい先生方や教え子の囲まれ、三十年間もの長い間仕事を続けることが出来て、妻もきっと本望だったと思います。病床にあっても、妻はいつも学校のことを気にしておりました。途中になってしまった授業のことなど心残りもあったでしょうが、皆様のおかげで、こうして大勢の方にお見送りいただき、厚くお礼申し上げます。
 本日はありがとうございました。
故人の妻の場合
 本日はご多忙中のところ、多数のご焼香をいただき、厚くお礼申し上げます。おかげさまで、ただ今出棺の運びとなりました。皆様方のお見送りを受けることが出来て、故人もさぞ満足していることと存じます。
 夫○○は、去年の春から約一年、肝臓に悪性腫瘍ができて闘病生活を送りました。本人には病名は告げませんでしたが、この一年間痛いとかつらいなど、一言も弱音を吐かず、病魔と戦い続けてまいりました。
 私たちは結婚当初より信仰の道を同じくしておりました。ともに仏に祈り続け、回復を願ってまいりましたが、生死の覚悟は出来ていました。
昨夜遅く、意識が薄れたまま不帰の人となってしまいました。「この三十年間幸せな人生をありがとう」という言葉を、私の口からいえなかったことが唯一の心残りでございます。
 でも、私の心の中で、これまで以上に身近に、夫はいつまでも生きていると信じております。そしてあの世から、私と娘を見守っていることと思います。
 本日はお忙しいなかをお見送りいただきまして、本当にありがとうございました。心からお礼申し上げます。
故人の親の場合
 本日は、長男○○のために、多数ご参列くださいまして、ありがとうございました。また先ほどは温かい弔辞をいただきまして、故人も草葉の陰で喜んでいることでありましょう。
 ○○の一生は、二十一年というあまりに短い間でしたが、皆様のようなすばらしい師や友にめぐり会えたことは、この上なき幸せと思っております。小さな頃から体が弱く、病と共に歩んできたような人生ではありましたが、希望の大学に進むこともかない、好きなサッカーに汗を流すことも出来ましたことは、ひとえに先生方をはじめとする多くの方たちのご理解と励ましがあってのこと。心から感謝しております。
 ○○は、体が弱かった分、芯がとても強い子でした。入退院をくり返し、闘病生活を続けて行くにつれて、どんどん強い心を持つようになっていったというほうが正確かもしれません。妻、長女、私と、私ども家族は、本来ならば○○を力づける立場にあるにもかかわらず、いつも○○に元気づけられておりました。
 ○日、午後△時△分に息を引き取ったのですが、その前日、○○は急に、私たちに小さな頃の思い出を語り、礼を言いました。そして「僕の人生は、とても幸せだったよ」とも。すでに自分の死期を悟っていたのでしょうか。しかし、これは、今の私どもにとって、何よりの慰めの言葉となりました。
 皆様。闘病中に何度もお見舞いに来てくださったり、授業のノートを届けてくださったこと、まことにありがたく存じております。命のつきるまで皆様とご一緒に青春のひとときを過ごせた○○は、本人の言葉通り、人生に悔いはなかったことでしょう。ありがとうございました。息子にかわってお礼を申し上げまして、ご挨拶とさせていただきます。
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